綴 錦   つづれにしき   TSUDURE NISHIKI

伊勢系   やや藤味を含む澄んだピンクに紅脈が入る垂れ咲き中輪。花径はおよそ14cm程度の中輪。
草丈は低く50cm程度。性質、繁殖は普通。

垂れ咲きの花形、縮緬地の弁質、芯の蜘蛛手など、伊勢花菖蒲の特徴をよく備えた花である。
1953年、冨野耕治氏の作。

伊勢花菖蒲は総じて派手さはなく小型の花が多いので、豪華な肥後系の隣に置くとかすんでしまうが、
本種のように上品で繊細な美しさを持った品種が多く、捨てがたい魅力をもっている。
こういう品種を観賞するには、鉢で作り、咲いたら室内に持ち込み、静かにゆったりとした気持ちで心
ゆくまで向き合うと良い。それはそれで、とても贅沢なことだと思う。


現在、純粋な伊勢花菖蒲を育種している人はいないというか、私は知らない。花菖蒲のような伝統花で
もやはり現代的になっていて、純粋な伊勢系は、派手で豪華といった個人を引きつけるインパクトもなく、
性質が丈夫で草丈高く繁殖が良いといった花菖蒲園向きの合理性もないので、現代の花菖蒲のニーズ
や育種方向からはずれているのである。したがって花菖蒲園でもあまり植えられていないし、販売されて
いる品種も少ない。

しかし、この世界には江戸や肥後にない床しさがあり、捨てがたい魅力を持っていると思う。