春 月   しゅんげつ   SYUNGETSU

江戸系   早生   薄藤色の六英花。花径はおよそ13cm程度の中輪。
草丈は低く60cm程度。性質、繁殖は普通。


何だろう?と不思議に思われるかもしれない。まず、この花は、戦前に、当園の園主の母、加茂寿美子さんが選んだ花と
して当園に伝わってきた花である。下の写真は昭和10年頃のもので、右の女性がその人であり、だっこされているのが
現在の当園の社長、元照氏である。ちなみに中央の軍服姿の人は加茂家の親戚に当たる人で、その右が社長の姉。その
右が社長の父親である。


加茂家は桃山時代から、この遠州佐野郡桑地村の庄屋であった。また、東海道の掛川から、防火で全国的に有名な
天竜の秋葉神社へ向かう秋葉街道に面していた関係もあって、この庄屋の長屋門の前は、昔から人通りの絶えない
場所であった。


現在の花菖蒲園にあたる場所は昔は田圃であり、長屋門の前だけ、江戸時代の末頃から厄除けの意味もあって花菖蒲
をほんの少しだけ植えるようになった。上の写真でも田圃があることがわかる。この小さな花菖蒲畑を、寿美子さんと、
女中の二村つぎさんという人で管理していた。

そして、戦後の農地改革で田畑の大部分を失い、割烹旅館「加茂荘」として旅館を経営していたこともあったが、現在の
園主が昭和20年代の後半からこの長屋門前の田圃の花菖蒲を増やし、そうすると花を見にお客さんも増えたので、さらに
東京の堀切や、三越の花菖蒲協会の展示会や、平尾先生、冨野先生、光田先生などから苗を仕入れ、増やし、さらに拡大
して花菖蒲園が出来上がった。そうして入園料を取り始めたのが昭和の30年頃とのことである。



こ春月という花は、花自体は小型で色も薄く、可愛らしいくともあまり目立たない花だが、戦前にこの園で選ばれた花ということで、
当園では他の品種とはまた違った意味がある。しかし、かなり出荷された品種なので、普及はしていると思われる。