松 涛   しょうとう   SHOTHO

熊本花菖蒲   晩生   濃いルリ紺色の六英。花径はおよそ18cm程度の大輪から極大輪。
草丈は100cmと高くなる。性質は丈夫、繁殖は普通。

熊本花菖蒲の古花の一つ。明治時代に熊本満月会会員の蓑田播穀氏によって作出された。
氏は、明治時代多くの品種を作出された満月会会員の一人である。

本種のようなルリ紺色や、紅紫などの濃色花は、その昔熊本では多く作出されたようである。
室内の淡い色彩のふすまの前に花を並べると、ピンクや絞りなどの薄い色彩の花よりも、濃
い色彩の花の方が映えたからではないだろうかと思う。

それにしても、菖翁花の「王昭君」から改良されたことは何となくわかるのだが、この系統は類似
花が多く、「八橋」も「久方」も「百夜車」も「内裏」も、どれもよく似ており、わかりづらい。


このカタログで熊本花菖蒲として紹介している品種は、当園が1980年代の終盤ころ、横浜の衆芳園
から入れたものである。入れたとき西田勇氏から、地には植えずかならず鉢で楽しんでください。と
ご指導をうけたことを覚えている。
しかし、大切にしなければと思うのだが、今一つ身が入らない。それは、この系統はルリ紺と白花が多い
のだが、どれもよく似ているということ、そして、衆芳園は、太平洋戦争で花菖蒲を一時離散させてしまって、
戦争が終わってから、名古屋の光田氏など方々の趣味家から戦争の混乱で半ば放置されていた品種を
買い戻したという話も伝わっているからである。この間、品種の名札はほんとうに正確だったのだろうか。
例えば江戸の古花や、熊本古花でも「秋の錦」や「石 橋」など特徴のある品種は、花を見れば札などなくとも
識別は可能だが、熊本古花のルリ紺や白はわかりづらい、私の感覚で思ってしまうのだが、ほんとうに同一
の品種だろうかと思ってしまうのである。

もう一つ付け加えてお話すると、現存している菖翁花についても、菖翁本人の作と言い切ることはむろん
できない。絶対そうであると証明できる人は誰もいないから。しかし、ここまでくると私は本当はどうあれ、ネーミング
の世界だと思っている。「これは松平菖翁が江戸末期に作出したこれこれという花でございます。」とくれば、
本当はどうあれその由緒に酔うことはできる。誰も証明できる人はいないのだから、それでいいんじゃないか、
というのが私の考えである。