猿 踊  さるおどり  SARU ODORI

江戸系  中早生 
薄紅ぼかしに白筋の入る三英。直径は16cm前後の中輪。
草丈は100cm前後。性質はやや弱い。繁殖は普通。

江戸系の古花で、明治18年には現存していた記録がある。花の色を猿の赤い顔に見立てた面白いネーミングで、花弁の描く輪郭の曲線が何とも優美な玄人受けのする品種である。間の美と言うか、こういう美しい花は、逆に現代の品種には見られない。江戸人の観賞眼の高さが伺われる。


花菖蒲の原種のノハナショウブは、もともと株として半永久的に存続する植物ではなく、種子繁殖して新しい個体になりながら分布を広げてゆく性質を持っている。自生地でも栄養状態が悪く、1本の葉篠が発生し、花は毎年咲くか咲かないかというような状態なら、かなり長い年月の間、株として存続できるようだが、栄養状態が良く大株になると、多くの花を咲かせ株は衰弱して絶えてゆくようである。それがこの花の自然の状態である。

しかし、園芸種の花菖蒲は、品種として株分けすることにより、長い年月の間、同一の個体が生存することになる。そうすると、年月とともにその個体自体の老化が進むのだろう、作出直後は元気な品種でも、年月を経るごとに徐々に草勢いが弱くなる。まして古花のように、作出されて100年を経た品種ともなると、草勢がかなり弱くなって来ている品種も見られる。この「猿踊」にしても、状態の良いときは元気に生育するが、ちょっと手をぬいて株を衰弱させてしまうと、弱りやすい。