ノハナショウブ   
Iris ensata var. spontanea (Makino) Nakai


花菖蒲の原種で、北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国東北部、シベリア極東部に自生するアヤメ科の多年草。山野の草原や湿原に生える。地下茎は分岐し横に這い、褐色の多くの繊維に包まれる。葉は偏平な線形で全緑、直立して30〜60pになる。花茎は直立して高さ40〜100p、2〜3個のほうを付け、時に分枝する。開花は6〜7月。直径10p程の赤紫または青紫の花を咲かせる。


右の画像は販売用の苗と同じ系統の、北日本産に自生している個体。花径はおよそ9cm程度、葉は細く草丈は60cm前後。

ノハナショウブの栽培は園芸種の花菖蒲と同じでよい。丈夫なので、関東以北の冷涼な地域では放任栽培でも良い結果が出るのではないだろうか。




ノハナショウブは園芸種の花菖蒲と比べると地味な花だが、花菖蒲を長年栽培している玄人が、最後に好きになる花でもある。無論そうならずに終わられる方も多いが、感覚が洗練されてくると、簡素ななかに美を見出す日本人の美意識が、長井古種やこの花に眼を向けさせる。平尾先生なども晩年この花にあこがれ、「いちばん元になるこの花の美しさに、なぜ日本人が感激して花菖蒲の文化を作り上げてきたか、それをさかのぼって考え、くりかえし何度も何度も見て自分への肥やしにして、その上で育種を展開してゆかなければならない。」と話されていたと聞く。これは、花菖蒲の育種を志す者が、日本の花を育種するために忘れてはならない最も重要な根本思想だと思う。
そして、その想いが当園の園主の加茂に引き継がれ、氏もロシア極東部のノハナショウブを観察しに行ったこともあり、あやめの語源について、ノハナショウブの鮮やかで美しい黄色い目から「あやめ」と呼ばれるようになったとする独自の説を持っている。


また、花菖蒲の文化的な面に興味をもつようになると、各系統の古品種に興味が湧き、次いで発達の歴史から徐々に時代を遡り、園芸化初期の様子からその黎明期の謎解き、そして、その土台となるあやめ文化と日本人との関わり合いがどういうものであったかというテーマにいきつく。この疑問の中心に、いつもノハナショウブは存在し、古の幻想の世界にいつも美しく咲いているのである。そんな意味からも、いつまでも興味は尽きない。


私は、花菖蒲の発達の謎解きから長井古種へ、そしてこの花へと興味が移っていった。しかし、そうするなかで、この花をはぐくんでいる大きな自然そのものに、惹かれるようになった。



北海道別海町