長井小紫   ながいこむらさき   
NAGAI KOMURASAKI

長井古種   早生   明るい青味を含む紫の三英花。花径は約11cmほどの小輪。草丈は100cm以上になる。性質は強く、繁殖も良い。

長井古種の代表的な花で、すきりとした花形と色彩が美しく、一輪では単純な花でも、群生させるとたいへん良い味を出す。
昭和37年に、長井古種が認知された当時からの品種だが、この花はその頃に長井のあやめ公園から園主の加茂が譲り受けたと聞く。しかし現在あやめ公園に行き、長井小紫を見ると、本種とは別個体のが長井小紫になっているように、どうも感じられる。また、昭和46年に出版された「花菖蒲大図譜」に掲載される長井小紫は、当園の個体とは違うようである。

とある花菖蒲愛好家が、長井小紫は自分がこれが長井小紫だと思えば、その花が長井小紫でいいんだ。と話していたのを思い出す。実際にはそれでは困るのだが、これだけしっくり来る名前を付けると、その名前も花の美しさの一部になる。豪華な花はいずれ飽きが来る、そんなときに改めて美しいと思う花である。


長井古種とは、山形県長井市のあやめ公園に保存されてきた系統で、この公園には3.3ヘクタールの土地に長井古種をはじめ多くの花菖蒲が植栽され、長井古種は33品種が保存されているほか、無名の長井古種も多く植えられている。
もともと、明治以前からこの付近の民家の庭先に植えられて来た、ノハナショウブの色変わりが元になっているので、花形は江戸花菖蒲の古花よりさらに古い、江戸の元禄から文化文政頃の花菖蒲の姿をとどめている。江戸時代中期の「地錦抄」や「衆芳園草木画譜」などの古書には、長井古種と同じような花菖蒲が描かれている。シンプルで素朴な花形が美しく、丈夫な系統であるとともに、花菖蒲のルーツに触れることのできる、たいへん興味深い系統である。