美吉野   みよしの   MIYOSHINO

伊勢系   早生   美しい澄んだピンクの三英垂れ咲き。花径はおよそ14cm前後の中輪。
早咲きだが一度に花が咲き切ってしまわず、次々に花茎を上げる性質があるので、開花期が
長く花菖蒲園には好適な性質を持っていた。加えて葉が濃緑で剣のような剣葉で、葉姿も申し分
なし。草丈も100cm弱程度に伸び、繁殖も良い。そして美しいピンクと上品で優美なな花形、その
名前の良さで、昭和の後期にたいへんな評判だった。それまで今ひとつ評価されていなかった
伊勢系が見直されたのも、この品種の出現に依るところが大きい。

作者の冨野先生は、遅れ花が出る品種というところまでは気が付かなかったのではないかと思うが、
先生が加茂花菖蒲園に本種を譲られ、当園でその性質を発見し、花菖蒲園に好適であるばかりでなく、
個人栽培家にも人気があるのを見つけ、大量に増殖させ、全国の花菖蒲園に広めた。そのことが、本種
を普及させ、2001年の花菖蒲人気投票でも第2位となった。

こんにちでは本種より鮮やかなピンクが多く作出されたので、往年の名花になりつつあるが、肥後系の
「舞扇」などとともに、花菖蒲のスター的な品種だった。花良し、葉良し、性質丈夫で繁殖良し、そして名前
良しというのが、後世に残る名花の条件であることがわかる。
1960年頃、冨野耕治氏作