都の巽   みやこのたつみ   MIYAKO NO TATSUMI

江戸系   中生   一見薄藤紫の砂子絞りだが、咲き始めは弁の中央が薄紅に染まり、咲いても
ピンクなども微妙にまざった不思議な色彩の六英花。椀咲きで、花径は約16cm程度。草丈は60cm程度。

江戸古花のなかでも松平菖翁の作出した「菖翁花」と呼ばれている品種の一つで、この菖翁花は、
現在10数種類程度が現存しているものと思われる。この品種は菖翁の花菖蒲品種目録「花菖蒲花銘」
に記載され、菖翁花ではよく知られている「宇宙」などよりも、はるかに栽培の少ない希少な品種である。

菖翁の品種目録を見ていると、翁は実にさまざまな色彩の花を改良していたことがわかる。なかでも
本種のような、微妙な色彩が混ざり合った品種も多く「虹色」などと表現してある品種も見られる。
この「都の巽」も一言で何色と表現できないような不思議な色の混ざり合った花で、下の写真のように、
咲き始めは青色さえ帯びる。こんな色彩を見ていると、今日の私たちの花色に対する色彩感覚と、江戸時代
のそれとではまた少し違っているのではないかと思えてくる。こんにちの育種家はあまり作出しない絞り系の花も、
多く作出されていたようである。

菖翁の「花菖培養録」を読むと、翁は花形にこだわり、八重であるとか、気品においては三英に勝るものはない
とか言っている。しかし、花色については、例えば花色の改良を行ったなどという事柄は、一切書かれていない。
また、菖翁の作出した花を見ても、花形の変化は素晴らしいが、花色については、これといったものはなく、文化文政
頃の花菖蒲とあまり変わらないのである。これらのことから、翁は花形の改良を行ったのであって、花色については、
様々な色彩の花を作出したが、色を追求した育種はあまりしていなかったのではないだろうかと考えられる。