出羽万里   でわばんり   DEWA BANRI

長井系   早生   白地に紫の脈が入り芯は紺紫、鉾は濃紅紫の三英花。花径はおよそ10cm前後の小輪。
草丈は80cm前後。

長井古種の改良品種。長井古種の可愛らしさ野生らしさを残し、きりっとした品の良さを際立たせた小輪の名花。
当園園主の加茂が、長井古種のタネを長井から多く取り寄せ、開花した実生株の中から、当園の一江氏が選抜
したもの。
残念ながら、近年発生したリゾクトニア性の立枯れ病に弱く、栽培が難しくなってしまったのが非常に惜しい。
1989年、加茂花菖蒲園作



以前長井市のあやめ公園へ行ったとき、満開に群れ咲く長井古種のさまざまな無名花を見た。名前を付けるまで
はゆかない、とりたてて特徴のある花でなくとも、もともとがシンプルな花形なので美しく、とても気分が良かった。
その園の一角に、はっと目を引く一群があった。長井古種としては珍しく花形が整った良花ばかりが数品種まとめ
て植えてあった。長井古種にもこんな花形の整った花があるんだ・・。と感心して良く見たら、この「出羽万里」とか
「山野辺」とか、つまりうちの(加茂花菖蒲園で作出された)品種だった。

「なんだ・・・。」と思って興味が一変に失せたが、そのとき、こんな整った長井古種は、やはり長井古種などではなく、
人の創作品なのだということを強く感じた。花形が完璧だとか、色彩も抜群とかいうのは、やはり人の尺度である。
しかし本来長井古種とは、もともと人の作為と無作為の中間にあるような花だと思う。もともとこの長井周辺に昔から
自生していた花を人が作るようになったとか、あやめ公園に植えられてから、自然に交雑して生えてきた花の中から
よく殖えて見所のある花に名前を付けたものなのだ。初め感じた無名の長井古種の気分の良さは、そんな人の作為
のあまり感じられないところなんだと、出羽万里を長井のあやめ園で見て、逆に思った。